バチルス菌とは|畑での働きと資材の使い方、自分の畑で確かめる方法
資材の売り場で、袋に「バチルス菌配合」と書かれたものをよく見かけるようになりました。土壌改良材、堆肥の発酵促進剤、液体の活性剤。名前は違っても、中身の説明には同じ菌の名前が並びます。ところが、その菌が畑の中で何をしていて、自分の畑に要るのかどうかを落ち着いて説明している文章は、意外なほど見当たりません。売る側の説明か、健康食品の話がほとんどです。
この記事の色の使い分け ― ■ 緑=そうしたほうがよいこと・うまくいっている状態 / ■ 橙=注意すること・つまずきの原因 / ■ 藍=水と時間に関すること
この記事の目次
バチルス菌とは — 枯草菌の仲間と、芽胞という殻
バチルス菌は、バチルス属(Bacillus)という細菌のグループの呼び名です。一種類の菌の名前ではありません。畑の話でいちばんよく出てくるのは枯草菌(こそうきん)で、名前のとおり枯れ草や稲わら、土の中にふつうにいる菌です。納豆をつくる納豆菌は、この枯草菌の一種です。
| 呼び名 | どういう菌か | 畑とのかかわり |
|---|---|---|
| バチルス属 | 芽胞をつくる細菌のグループ全体の名前 | 土の中にもともと多くいる |
| 枯草菌 | バチルス属の代表。枯れ草・わら・土に広くいる | 資材の菌として使われることが多い |
| 納豆菌 | 枯草菌の一種。煮た大豆でよく増える | 「納豆で自作」の話題の元(後で詳しく) |
| そのほかのバチルス属 | 性質はさまざま。食中毒の原因になる種類もある | 「バチルス」だから安心、とは言えない |
このグループの最大の特徴が、芽胞(がほう)です。暮らしにくい状況になると、菌は自分の中に硬い殻をつくり、その中で眠ります。乾燥にも熱にも強く、条件が戻ると目を覚まして、また増え始めます。
芽胞は「強い菌」の印ではなく、「眠って待てる菌」の印です。眠ったまま土に入っても、目を覚ます条件がなければ、そのまま眠り続けます。
| 芽胞があることで | よいこと | 勘違いしやすいこと |
|---|---|---|
| 保存 | 粉や粒にして常温で置いておける | 保存がきく=いつまでも使える、ではない。使用期限は袋で確かめる |
| 土に入れたとき | 乾いた土でもすぐには死なない | 死なない=働いている、ではない。眠ったままのこともある |
| ほかの資材との組み合わせ | ぼかしや堆肥に混ぜ込みやすい | 混ぜれば必ずその菌が主役になる、とは限らない |
下の動画(音声つき・約2分)では、袋の中で眠っている菌が、どんな土なら目を覚まして増えるのか、そして自分の畑で役に立っているかを3つの区で確かめる方法までを、絵で順に見ていきます。
土の中でバチルス菌がしていると言われること
バチルス菌の働きとして資材の説明によく書かれているのは、大きく3つです。どれも研究の対象になっている働きですが、試験の条件と、家庭菜園の条件は違います。表の右の列は、家庭菜園で読むときの注意です。
| 働き | 言われていること | 家庭菜園で読むときは |
|---|---|---|
| 有機物の分解 | 酵素を出して、でんぷん・たんぱく質などを分解する | 分解する材料(有機物)が土にあることが前提 |
| 取り合い | 場所とエサを先に占めて、ほかの菌が増えにくくなる | 土にはもともと膨大な数の菌がいる。足した分が勝ち続けるとは限らない |
| 根のまわり | 根の近くに住み、根のまわりの環境に関わる | 作物・土・時期で結果が変わる。1作では判断しにくい |
「病気に効く」と書けるのは、農薬として登録されたものだけ
バチルス属の菌には、農薬として登録されているものもあります。枯草菌を有効成分とする微生物の殺菌剤や、BT剤と呼ばれる殺虫剤(これもバチルス属の菌を使ったもの)です。一方、土壌改良材や肥料として売られている「バチルス菌入り」の資材は、農薬の登録がなければ、病気や害虫を防ぐ効果をうたって売ることができません(農薬取締法)。袋のどこを見ればよいかは、次の表のとおりです。
| 農薬として登録された微生物資材 | 土壌改良材・肥料・活性剤 | |
|---|---|---|
| 袋の目印 | 「農林水産省登録 第〇〇号」の表示 | 登録番号の表示はない |
| 書いてよいこと | 登録された作物・病害虫に対する効果 | 土や生育についての説明。病害虫の防除効果は書けない |
| 使い方の決まり | ラベルに書かれた作物・時期・回数・量を守る | 説明書の使い方に従う |
| 家庭菜園での読み方 | ラベルに載っていない作物・病気には使わない | 「病気が出なくなる」と受け取らない |
菌を足す前に — エサと住処がない土では増えない
微生物資材の話は、つい「どの菌を入れるか」に目が行きます。けれど土の中の菌は、入れた量ではなく、その土が養える量までしか増えません。エサになる有機物がなく、住処になる隙間(団粒)がなく、乾ききった土に菌だけ足しても、目を覚ます理由がないのです。
| 菌に必要なもの | 足りないと | 整えるには |
|---|---|---|
| エサ(有機物) | 目を覚ましても増えられない | 刈り草・落ち葉・堆肥・米ぬかを入れる、または表面に敷く |
| 住処(隙間) | 空気が入らず、暮らせる場所が少ない | 団粒をつくる。踏み固めない、耕しすぎない |
| 水分 | 乾けば休み、水浸しなら空気が足りない | 湿り気を保つ。敷き草で乾きを防ぐ |
| 温度 | 冷たい土では動きが鈍い | 春の早い時期や晩秋は、動き出すまで時間がかかると考える |
家庭菜園での使い方 — 分量は説明書、考え方はここで
バチルス菌の資材は、製品によって菌の種類も濃さも、使う量もまったく違います。分量と回数は、必ずその製品の説明書に従ってください。ここでは、どの製品にも共通する「いつ、何と一緒に入れるか」の考え方だけを整理します。
| 入れ方 | ねらい | 気をつけること |
|---|---|---|
| 土づくりのときに混ぜる | 植え付け前の土に、有機物と一緒に入れる | 有機物とセットで。菌だけ入れない |
| 堆肥・ぼかしづくりに加える | 分解を進める種菌として使う | もともと材料にいる菌も働く。入れなくても発酵は進む(作り方はぼかし肥料の作り方) |
| 水に溶かして株元へ | 生育中に根のまわりへ届ける | 乾いた土には、先に水をまいてから |
| 農薬登録のある製品を散布 | ラベルにある病害への予防 | 登録の作物・時期・回数を守る。ほかの殺菌剤との混用はラベルを確認 |
納豆で「自家製バチルス液」をつくる話について
納豆菌は枯草菌の一種なので、「納豆を水に溶かして増やし、畑にまく」というやり方が紹介されることがあります。材料費はほとんどかかりません。ただし、市販の資材と比べると、確かめられないことがいくつもあります。
| 市販の資材 | 納豆からの自作 | |
|---|---|---|
| 菌の種類 | 表示されている | 増えたのが納豆菌だけかは分からない |
| 菌の量 | 製品ごとに管理されている | 分からない。毎回ちがう |
| ほかの菌の混入 | 製造工程で管理されている | 容器・水・空気から入る。腐敗することもある |
| 費用 | かかる | ほとんどかからない |
| 確かめ方 | どちらも、3つの区を並べて比べるしかない | |
自分の畑で確かめる — 3つの区を並べて比べる
資材が自分の畑で役に立っているかどうかは、入れた場所と入れなかった場所を、同じ年・同じ条件で並べる以外に知る方法がありません。そのとき大事なのが、「何もしない区」だけでなく「同じ量の有機物だけを入れた区」を置くことです。資材の多くは有機物と一緒に入れるので、差が出ても、それが菌のおかげなのか有機物のおかげなのか、これがないと分からないからです。
| そろえるもの | 見るもの | 記録のしかた |
|---|---|---|
| 作物と品種、植えた日 | 生育のそろい方、葉の色 | 同じ日に、同じ角度で写真を撮る |
| 有機物の種類と量(A と B) | 収穫量(重さ・本数) | 区ごとに量って書いておく |
| 水やりと日当たり | 病気や傷みの出た株の数 | 出始めた日と株の数 |
| 区の間の通路 | 土の手ざわり(握って崩れ方) | 作の前後で同じやり方で見る |
効かないと感じるときに見直すこと
| 原因 | 確かめ方 | 次にすること |
|---|---|---|
| エサがない | ここ1年、有機物を入れたか | 刈り草・落ち葉・堆肥を先に入れる |
| 水分が合わない | 雨の翌日に水が溜まるか、すぐ乾くか | 敷き草で乾きを防ぐ/水はけを先に直す |
| 土が冷たい | 入れた時期 | 地温が上がってからの様子で判断する |
| 保管と期限 | 袋の使用期限・保管場所 | 直射日光と高温を避けて保管。開けたら早めに使う |
| 期待がずれている | 袋に何ができると書いてあるか | 病気の予防を求めるなら、農薬登録のある製品のラベルを確認する |
選ぶときに、袋で見る4か所
「バチルス菌入り」という言葉だけで選ぶと、比べようがありません。袋の裏で、少なくとも次の4か所は確かめてください。
よくある質問
バチルス菌と納豆菌は同じものですか
同じではありません。バチルス菌はバチルス属という細菌のグループ全体の呼び名で、納豆菌はその中の枯草菌の一種です。資材の「バチルス菌」が納豆菌のことだとは限らないので、どの菌が入っているかは袋の表示で確かめてください。
バチルス菌の資材は、農薬や化学肥料と一緒に使えますか
製品によって違うので、説明書やラベルの注意書きに従ってください。一般に、殺菌剤は菌の資材の菌そのものを減らすおそれがあるため、同時に使えるかどうかは必ず確認が必要です。農薬として登録された微生物資材は、混ぜて使えるものがラベルに書かれています。
バチルス菌を入れれば、病気は出なくなりますか
出なくなるとは書けません。病気の予防をうたえるのは農薬として登録された製品だけで、それもラベルに書かれた作物と病気の範囲に限られます。病気が出やすい畑では、輪作・水はけ・風通しといった基本が先です。輪作の組み方は連作障害とはにまとめています。
効果はどれくらいで分かりますか
1作だけでは判断しにくいです。天気や植えた位置の違いで差が出たり消えたりするためです。資材あり・同じ量の有機物だけ・何もしないの3つの区を並べ、2作目以降に同じ向きの差が続くかどうかで判断してください。
まとめ
| どんな菌か | バチルス属の細菌。代表は枯草菌で、納豆菌もその一種 |
| 資材にしやすい理由 | 芽胞という休眠の殻で、乾燥や熱に耐えて保存できる |
| 畑でのこと | 有機物の分解、ほかの菌との取り合い。働くかどうかはエサと住処しだい |
| 病気への効果 | うたえるのは農薬登録のある製品だけ。ラベルの範囲で使う |
| 使い方 | 有機物とセットで。分量は説明書どおりに |
| 確かめ方 | 資材あり・有機物だけ・なしの3区を並べ、2作目以降に判断する |
袋の中の菌が畑で働けるかどうかは、菌の強さより、入れる先の土がどれだけ菌を養えるかで決まります。エサと住処を整えることは、資材を使っても使わなくても無駄になりません。そのうえで上乗せを試すなら、並べて比べて、自分の畑の答えを自分で出してください。
土の中の菌は、測ると違いが見える
菌を養える土かどうかは、見た目だけでは分かりません。うちで使っている培養土と市販の培養土について、土の中の微生物の量を分析に出して比べたところ、糸状菌の数に差が出ました。その報告書を含む分析結果と栽培記録を、良かった数字も伸びなかった数字もそのまま公開しています。
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