不耕起栽培とは|耕さない畑で土が変わる仕組みと、家庭菜園での始め方
春になると、まず耕す。うちも長いあいだそうしてきました。ところが夏の終わりに同じ畑を掘ると、表面から20cmほど下に、スコップが止まる硬い層ができていることがあります。毎年ていねいに耕しているのに、土は締まってくる。この矛盾に気づくと、耕すという作業そのものを疑いたくなります。
この記事の色の使い分け ― ■ 緑=そうしたほうがよいこと・うまくいっている状態 / ■ 橙=注意すること・つまずきの原因 / ■ 藍=水と時間に関すること
この記事の目次
不耕起栽培とは — 家庭菜園では、目的がまるで違う
不耕起栽培(ふこうきさいばい)とは、作付け前に土をひっくり返す作業をやめ、前作の根と有機物を残したまま、そこへ次の種や苗を入れるやり方です。英語では no-till と呼ばれ、海外の大規模穀作では専用の播種機を使う技術として普及しています。ただし、大規模畑作と家庭菜園では、やる理由がまったく違います。
| 大規模畑作の不耕起 | 家庭菜園の不耕起 | |
|---|---|---|
| いちばんの目的 | 表土が雨で流れるのを防ぐ | 団粒構造を毎年ゼロに戻さない |
| 次に大きい目的 | 燃料費と作業時間の削減 | 水はけと保水を両立させる |
| 必要な道具 | 不耕起播種機(専用機) | 移植ごて1本 |
| 除草の考え方 | 除草剤を前提に組むことが多い | 敷き草で光をさえぎる |
| 成果の出方 | 初年度から燃料費として出る | 2〜3年目に土の状態として出る |
硬い層ができるのは、刃の届く深さが毎年ほぼ同じで、その先端が同じ深さを押し固め続けるためです。表面のふかふかは1シーズンで消えますが、下の硬い層は残ります。
耕すと壊れる「団粒構造」とは
土のよしあしを決めているのは、粒そのものではなく粒と粒のつながり方です。細かい粘土や砂が、微生物の粘り気・菌糸・腐植で糊づけされ、小豆くらいのかたまりになる。これが団粒です。
| 団粒がある土 | 団粒がない土 | |
|---|---|---|
| 隙間の作り | 粒の内側と、粒どうしの間の二階建て | すきまが一種類しかない |
| 水 | 粒の内側が抱える(水もちがよい) | 抜けすぎる、または溜まる |
| 空気 | 粒の間を通る(水はけがよい) | 根が息をしにくい |
| 雨のあと | 翌日には歩ける | 表面が膜のように固まる |
| 耕すと | 二階部分が機械的に叩き潰される。1シーズンで元に戻ってしまう | |
「水もちがいいのに水はけもいい」という一見矛盾した状態は、この二階建ての隙間があってはじめて成り立ちます。自分の畑に団粒があるかどうかは、道具なしで確かめられます。
判定のこつは、雨の翌々日くらいの湿り気で行うことです。乾ききった土はどれも粉になり、濡れすぎた土はどれも固まるので、区別がつきません。
「もっと深く耕せばいい」が通らない理由
| 硬い層をどうするか | できること | 家庭菜園では |
|---|---|---|
| 機械で深耕する (サブソイラ等) | 50〜60cm まで裂いて硬盤を切る | 機械が入らない。不可 |
| スコップで人力の深耕 | 上下を入れ替えれば硬い層は消える | やせた下層土が表に出る。表層の微生物と有機物を地下へ埋めることになる |
| 硬い層を作らない | 刃を同じ深さに入れ続けない | できる |
| 生き物に開けてもらう | 根・ミミズ・菌糸に縦穴を作らせる | これが不耕起栽培 |
耕さないと、誰が土をやわらかくするのか
耕さない畑がやわらかくなるのは、放っておいたからではありません。耕うん機の代わりに働く担い手が、三ついます。
| 担い手 | していること | 耕すとどうなるか | 育つまで |
|---|---|---|---|
| 根穴 | 枯れた根の跡が、縦の水みちになる | すべて途切れる | 1シーズン |
| ミミズ | 糞が団粒になる。通り道が排水路になる | 直接傷つく。数が減る | 1〜2年 |
| 菌根菌 | 菌糸が土を縫い、粒どうしを結ぶ | 菌糸が物理的に切れる | 2〜3年 |
下の動画(音声つき・約2分)では、耕すと土のなかで何が壊れ、耕さないと誰が代わりに土をやわらかくするのかを、断面の絵で順に見ていきます。
家庭菜園での不耕起栽培のやり方 — 秋からの5手順
| 手順 | やること | 次へ進む目安 | ここを外すと |
|---|---|---|---|
| 1 9〜10月 | 通路と栽培列を線引きし、残渣を地際で刈る | 列に足を踏み入れずに手が届く | 踏んだ場所はもう戻らない |
| 2 10〜11月 | 刈草・落ち葉を5cm 敷く/緑肥を播く | 地面が見えない | 見えている所から草が出る |
| 3 12〜2月 | 何もしない | ― | いじると分解がふりだしへ |
| 4 3月 | 播く2〜3週前、列の敷き草だけ脇へ寄せる | 土に日が当たっている | 春の生育が揃わない |
| 5 4〜5月 | 植え穴・播き溝だけ開けて植える | 周りの土をほぐしていない | ほぐすと1〜4が無駄になる |
手順1|通路と栽培列を、先に固定する
不耕起でいちばん効く工夫が、じつはこれです。人が踏む場所と作物を植える場所を最初に線引きし、二度と入れ替えない。 耕さない以上、踏み固めた場所は元に戻りません。逆に言えば、栽培列を一度も踏まなければ、そこは締まりません。
手順2|土を裸にせず、上から覆う
耕さない代わりに、有機物はすき込まずに上へ載せます。 土のなかに混ぜないので窒素飢餓が起きにくく、下から順に分解されて、そのまま表層の腐植になります。
| 敷くもの | 手に入れ方 | もち | 注意 |
|---|---|---|---|
| 刈草 | 自分の畑・庭から | 短い | 種を持つ前に刈る |
| 落ち葉 | 秋にまとめて集まる | 中 | 飛びやすい。上から少し押さえる |
| 稲わら・麦わら | 農家・園芸店 | 長い | いちばん扱いやすい |
| もみ殻 | ライスセンター等 | とても長い | 分解が遅く、肥料分はほぼない |
| 緑肥 (ライ麦・エン麦・ヘアリーベッチ) | 種を秋に播く | ― | 覆いと根穴が同時に手に入る |
敷くものが手に入らないなら緑肥が有力です。冬のあいだ根を伸ばし、春に地際で刈り倒してそのまま敷き草にすれば、1回の作業で覆いと根穴の両方が手に入ります。
手順4|春の地温だけは、意識して上げる
対策は単純です。播く2〜3週間前に、植える列の敷き草だけを脇へ寄せる。 通路の分は動かさなくてかまいません。土に日を当てて温め、植えたあと株元へ戻す。これで覆いの利点を捨てずに地温だけ稼げます。
手順5|土をめくらず、植える場所だけ開ける
植えつけの日は、畑全体には一切さわりません。 敷き草を株間の分だけよけ、移植ごてを差し込んでこじり、根鉢が入るだけの穴を開ける。周りをほぐす必要はありません。種の場合は支柱や板の角で浅い溝を一本引き、そこへ落として覆土します。
「こんな硬い土に根が張るのか」と思われるはずですが、張ります。 根は自分で土を押し広げるより、空いている隙間をたどるほうがずっと得意です。縦穴が通った土では、根は掘るのではなく通っていきます。 その隙間がまだ無い1年目に生育が落ちやすいのは、このためです。
失敗するのは、だいたいこの3パターン
| 起きること | 本当の原因 | どうするか |
|---|---|---|
| 草に負けて畑が埋まる | 覆いが薄い。地面が見えている場所から草が出る | 敷き草を切らさない。5cm を割ったら足す。抜くより「光を当てない」ほうが早い |
| 初年度だけ収量が落ちる | 硬い層がまだ残っていて、根が下へ入れない | 異常ではなく通過点。1〜2年目は根の深い作物(ダイコン・ゴボウ・麦)を先に入れ、根に穴を開けてもらう |
| 春の生育が揃わない | 地温不足。または敷き草の下がずっと湿っている | 手順4を必ず行う。排水の悪い畑では、列だけ10cm 高くしてから始める |
3つに共通するのは、どれも「耕さないこと」自体が原因ではないという点です。覆いが足りない、待ち時間を見込んでいない、地温を手当てしていない。いずれも手順で防げます。
始める前に、スコップを刺した深さと握った土の崩れ方を記録しておいてください。比べる相手がないと、変わったかどうかが分かりません。
向く畑と、やめておいたほうがいい畑
とくに排水は、耕さないことでは解決しません。 滞水した土では、団粒を作る側の微生物が働けないためです。
耕すか耕さないかは、目的で決まる
ここまで不耕起の話をしてきましたが、耕すことが悪いわけではありません。 耕うんは、土を短時間で均一な状態にリセットする作業として非常に優秀です。
| やりたいこと | 耕す | 耕さない |
|---|---|---|
| 今年、すぐ均一な土にしたい | ◎ | × |
| 石灰や大量の有機物を混ぜたい | ◎ | △ 表面施用になる |
| 数年かけて水はけと保水を両立させたい | △ | ◎ |
| 作業時間を減らしたい | × | ◎ 2年目以降 |
| 表土が流れるのを防ぎたい | × | ◎ |
よくある質問
不耕起にすると、雑草は増えますか
種類が変わります。地中の種が光に当たらないため一年草はむしろ減り、地下茎で広がる多年草(スギナ、ハマスゲなど)が有利になります。 この手の草がすでにはびこっている畑では、先に地下茎を片づけてから始めてください。
不耕起栽培では肥料をどう与えるのですか
すき込まず、表面に置いて敷き草をかぶせます。雨と土壌動物が下へ運びます。効き方が緩やかになるので、追肥で足す前提で組んでください。石灰など混ぜないと効きにくい資材は不耕起と相性が悪いため、必要なら切り替える前の年に済ませます。
不耕起栽培は何年で効果が分かりますか
スコップの入りやすさで見るなら2〜3年目です。1年目は変化がほとんど分からず、収量もやや落ちることがあります。1年で判断しないでください。
連作障害は不耕起栽培で防げますか
防げるとは書けません。土の生き物の多様さが増えて軽くなる例は報告されていますが、同じ科の作物を同じ場所で続ければ、耕そうが耕すまいが特定の病原菌と線虫は増えます。輪作は不耕起でも必要です。 科ごとの空ける年数と区画の回し方は連作障害とはにまとめています。
まとめ
| 目的 | 団粒構造と根穴を、毎年ゼロに戻さないこと |
| 誰がやるか | 耕うん機の代わりは 根穴・ミミズ・菌根菌 の3つ |
| いつ始めるか | 秋(9〜10月)。通路と列を固定 → 有機物で覆う → 春は地温だけ手当て |
| やらない畑 | 排水が悪い/握って形が残る粘土質/毎年場所が変わる |
| いつ判断するか | 2〜3年目。1列だけ耕して残し、隣と比べる |
土は、入れたものと待った時間の分しか変わりません。耕さないという選択は、その待ち時間を土のなかの生き物に預けるという意味です。預ける先がまだ育っていない畑では、まず預ける相手を作るところから始まります。
土そのものの中身を、数字で見てみる
団粒がある土とない土は、成分でも違いが出ます。うちで使っている培養土について、第三者機関に出したミネラル分析の結果と、実際の栽培記録を公開しています。

